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千夜千冊23夜 『終わらざる夏』 浅田次郎 『8月17日、ソ連軍上陸す』 大野芳
このあいだ週刊新潮で、浅田次郎と大野芳の対談記事がでていた。この二人の作家が作品で共通に扱った史実は以下である。

終戦から2日が経過した昭和20年8月17日深夜、最北の日本領、千島列島の占守(シュムシュ)島に、日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連軍が、突如、攻め入った。3日間に及ぶ激闘で、日本軍600名以上の戦死者、ソ連軍3,000名以上の戦傷者を出した。占守(シュムシュ)島は、「もう一つの硫黄島」とも呼ばれる。

おそらく多くの日本人がこの史実を知らないだろう。私もそうだった。日本は米軍と戦っていたのであり、この時期に、最北の地で、南隣する幌筵(パラムシル)島とあわせて23,000人もの日本軍が活動していたなんて想像もできやしない。しかも一個連体という強力な戦車部隊がいた。どう考えても対ソ連軍用だろう。

さて今宵の二冊なのだが、占守島の戦いそれ自体については 『8月17日、ソ連軍上陸す』 が詳しい。というかその全容が記述されている。著者は、もし占守島で日本軍が抗戦していなければ、ソ連軍が北海道どころか奥羽地方の一部さえ攻め落としていたかもしれないと主張する。そうかもしれないとは思う。しかし歴史のif議論をやり始めたら切りがない。私にはそれ以上に何の関心もない。

一方 『終わらざる夏』 の方はどうなのか。結論から云うと、この作品は後半に行くほどつまらなくなる。正直私も後半は集中して読んでいない。それより圧倒的に前半が興味深かった。それは何故かと云うと、これまでの戦争作品ではあまり描かれてこなかったことが書かれているからである。

それは3つある。1つは、軍令部で高官が動員計画を策定する様である。赤紙の源にはこういう実態があったのかと知ることができてよかった。1つは、地方の役人が赤紙を届ける様である。赤紙が届き複雑な心境になる様はこれまでの戦争作品に多く見られたが、届ける側の様子については皆目分からなかった。その意味で私には貴重な記述であった。最後の1つは、兵役年限についてである。この時期45歳までとは初めて知った。いや初めて意識した。この年齢ぎりぎりの中年が主人公である。こうすると確かにドラマは生まれるなと感じた。

つまり 『終わらざる夏』 は史実を知るためのものではなくて、稀有なシーンを美しい日本語で綴ってくれているのを味わう作品だ。私の感想はそうだった。流石に当世人気作家。浅田次郎の言葉遣いを堪能した。

二冊とも、今夏の読書としては良質でした。
[2010/09/01 04:39] | 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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