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追うぞ! 千夜千冊106夜 『Yの悲劇』 エラリー・クイーン
今宵の『Yの悲劇』はミステリーの古典で有名だとは知っていたがこれまで読んではいなかった。ちょうどよい機会だから読んでみた。

松岡正剛さんはこう言う。
「『Yの悲劇』もご他聞にもれず、犯人はそうとうに意外な人物になっている。推理小説の読後感のルール上、ここで犯人を予想させることを書くわけにいかないが、実は過去に綴られていた犯行計画の書き手と、その書き手ではない真犯人との関係が、この作品の怖い真骨頂となっている。そのうえ、その関係をときほぐすヒントが老優ドルリー・レーンが解くにあたいする仕掛けになっていて、それに老優が気がつくあたりから犯人との沈黙の一騎打ちの様相を呈してきて、そこに夢中になったのだろうとおもう」

そのルールとやらを侵してやろう。こんなあらすじである。

海で見つけられたぶよぶよの死体は数週間行方不明になっていたヨーク・ハッターであることを持ち物から容易に判断することが出来た。防水加工されていたタバコ入れにはこう書かれた紙が入っていたそうである。「関係者各位へ 完全に正常な精神状態において、私は自殺する。 ヨーク・ハッター」

ヨーク・ハッターが自殺したのはどう考えてもその妻エミリ・ハッターが原因に違いないとハッター家に関係する人物達ほぼ全てが思った。大金持ちのエミリに屈服し、従属を余儀なくされていたヨークが自ら死を選ぶことは意外ではなかったのである。この事を新聞は書き立てた、気違いハッター家の犠牲者として。大金持ちの不幸を書き立てることが購読者の興味を煽ったからだ。

ヨークの死から二ヶ月ほど経ち、新聞の喧噪もなくなりかけてきた頃だった。事件は再び起こる。

エミリ・ハッターの親族は多岐にわたるのだが、まずはそれを説明する必要があるだろう。彼女はヨーク以前にトム・キャンピオンという男と結婚していた。その時の一粒種がルイザ・キャンピオンである。彼女は生まれながらに三重苦を味わっていた。盲目で聾で言葉を喋ることが出来ない。幸い生まれてから二十年ほどは難聴であったが耳も多少聞こえていたため、点字や指文字で外世界と意思疎通がとることが出来たが、それでも可哀想な婦人ではあった。歳は四十、彼女はハッター家において実に珍しい物静かで心優しい人物だった。

エミリとヨークの間に出来た子供は三人。長女のバーバラは天才詩人で家族の中では唯一まともな女性だ。その次の長男のコンラッドは酒に溺れているアル中でいつも何かに当たり散らすような低脳、末娘のジルは社交的ではあるが高慢ないけ好かない女であった。また、コンラッドには二人の息子ジャッキーとビリーがいるのだが、これが一家からは手の付けられない悪ガキと黙されていた。その他住み込みの家政婦と住み込み運転手のアーバックル夫妻、女中のヴァージニア、ルイザ付きの住み込み看護婦スミス、そしてコンラッドの息子二人の家庭教師としてエドガー・ペリー、以上をもって気違いハッター家は成り立っていた。

さて、事件であるが、ルイザ・キャンピオンの日課の一つ、卵酒についても話さなければならない。彼女はエミリの命によって毎日卵酒を飲むことになっている。彼女は心臓が弱く、その為の滋養らしいのだが福々しい彼女の肢体には必要ないように卵酒を造っているアーバックル夫人には思えていたが、エミリの命は絶対である。故に毎日欠かさず呑ませていた。だが、その日は呑ませようと置いた卵酒はルイザに飲まれることなく、悪ガキのジャッキーに呑まれてしまう。しかし、それはルイザにとって幸運だった。卵酒には毒が入っていたのだ。卵酒を飲んだジャッキーはもがき苦しみ始め、幸いすぐに飲んだものを吐き出す処置をしたため大事に至ることはなかった。だが、ジャッキーが吐き出した卵酒をビリーの飼っていた仔犬が舐め痙攣しながら死に至った事からして相当に強い毒であることは間違いがなかった。ルイザ付きの医者はすぐにやってきて毒物がストリキーネであることが判明する。その後ジャッキーは回復しこれで全てが終わったに見えた。

しかし更に二ヶ月後、再び事件は起こる。ルイザとエミリは同じ部屋で寝ているのだが、エミリ用のフルーツバスケットに前日に無かったはずの腐りかけの梨が一つ追加され、その梨の中に重クロム酸水銀が注入されていた。だが、それは事件とは少し違う。ルイザと一緒にいたエミリが死んでいたのだ。死んだ原因は楽器のマンドリンの殴打による心臓麻痺である。何故ならばマンドリンが放置されていたし、傷はそれほど酷くなかったからだ。犯人はその他に二つ証拠を残していった。一つめはマンドリンで倒してしまった天花粉によって付いた靴痕、そして重クロム酸水銀が検出されることとなった注射器だ。自殺したヨークは科学者だった。自室を研究室に改造したヨークはそこで細々と化学の研究をしていた。その為様々な溶液や結晶に事欠かず、勿論その中には有毒な物も含まれていた。どうやらその研究室から毒物や注射器などを持ち出されているようなのだが、ヨークの死後部屋はエミリによってふさがれ、鍵は常にエミリが持ち歩いていた。ちなみにマンドリンもエミリによって触れることが許されない物の一つであった。故人を尊重する意味での感傷の一つなのだろうがそれによって不可思議なことが浮かび上がる。エミリの死後研究室の扉を開くと分厚く積もった埃によって殺人者が扉を使っていないことが解ったのだ。窓には鉄枠がはまり、そこを通ることは出来ない。靴痕は上手くごまかされていたが、どうやら暖炉を通じて侵入したようなのだが・・・。

老俳優ドルリー・レーンは再び事件の謎に迫る。

で、犯人は誰かということだが、ジャッキー!
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[2013/10/21 17:35] | 追うぞ! 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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