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一枚のハガキ
人の死に美学などあるものか。

新藤兼人さんが心の底から叫びたかったのはそのことではなかったでしょうか。撮影当時98歳という御歳最高齢。その監督にプロデュースされて、豊川悦司、柄本明、大竹しのぶ、大杉漣らベテラン俳優が顔を揃えています。なかなか味わい深い映画でした。

私は映画の専門的なことは分かりませんが、撮り方の技術が古いように思えました。少なくとも今風ではありません。役者の台詞は朴訥で脈絡がなく、時代当時の農村の現実(リアリズム)をまったく感じません。そんな訳でこの映画を観だしたら戸惑いを感じたのです。

ところが途中からはっきり分かるようになりました。新藤兼人という人は、そういう映画技術的なものを捨てた(削ぎ落した)のだと。その変わりに、人間の生身の生と魂にのみ迫ったのだと。だから余計に生きることの尊さが際立ったのだと思います。これが新藤兼人ワールドなのですね。敬服しました。

ごく簡単にストーリーを綴りますと、
戦争末期に召集された中年兵士の啓太は、一人の兵士から「自分は戦死するだろうから生き残ったらハガキは読んだと妻を訪ねてくれ」と一枚のハガキを託される。終戦後、啓太はわずかな生き残り兵士となり故郷に戻るが、妻は父と出奔し、村で彼を待つ者は誰もいなかった。ハガキを書いた友子を訪ねると、彼女は家族を亡くし、貧しい農家でひとり懸命に生きていた。
このような話です。

「一枚のハガキ」にはこう書かれていました。
今日はお祭りですが
あなたがいらっしゃらないので
何の風情もありません
             友子

この映画は、一つ一つのシーンにメッセージが込められていて、どれを取りだしても甲乙つけ難いです。一例を挙げますと、豊川悦司と恋敵の大杉漣との格闘場面があるのですが、とてもオーバーに撮られているのですが、好きな女をめぐって殴りあっている時の方が、同じ闘いでも、戦争なんかより遥かに活き活きとしていて人間らしいと教えてくれます。

最大の見せ場は、豊川悦司と大竹しのぶとの対話なのですが、そこには扇情的な音楽は何もなく、ただ囲炉裏をはさんで向き合って座る、淡々と言葉を吐き出す男と感情を抑えきれない女の姿があるだけなのですが、万感胸に迫りくるものがありました。

狭い畑が黄金色に染まった麦の穂でいっぱいになる最後のシーンは美しいです。
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[2011/08/21 02:33] | 未分類 | コメント(0) | page top
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