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追うぞ! 千夜千冊50夜 『時代考証事典』 稲垣史生
杉浦日向子(すぎうらひなこ)は、松岡正剛さんが今宵の記事を書かれた頃は存命だったようです。2005年の夏に下咽頭癌(かいんとうがん)のため46歳で亡くなられたようです。

杉浦日向子さんは漫画家であり江戸風俗研究家であったそうで、松岡正剛さんと仲良しだったと書かれてあります。代表作『百物語』もやがて千夜千冊されているらしく読めるときを楽しみにしています。

で、この杉浦日向子さんの師匠が稲垣史生(いながきしせい)という人らしい。多くの映画やテレビドラマの時代考証を手掛けた江戸時代考証の第一人者であったことを今宵知りました。

本書の帯に司馬遼太郎が推薦文を書いています。私が得た本著に帯は幸運にも残っていましたので転記しましょう。
「江戸という時代は、それ自身完結した一大文明社会で、文明という厳密な定義からいえば、こんにちよりはるかにその概念にふさわしい。その時代の人間風景のなかへわれわれを連れて行ってくれる先達のしごとを、かつては三田村鳶魚翁などがそれをはたし、いまでは稲垣史生氏が唯一の先達として存在しておられる。本書は読物としておもしろく、この一冊を読むことによって読者を、あでやかで、人間くさい江戸文明のなかへ連れて行ってくれるだろう」

松岡正剛さんも絶賛しています。
「その日向子ちゃんの先生が稲垣史生である。江戸時代の考証をすれば天下一品の人物だ。この30年ほどの時代劇映画、この20年ほどのNHKの時代もの大河ドラマの時代考証は、ほとんど稲垣史生の力を借りていた」

どうやら今宵のキーワードは時代考証のようです。松岡正剛さんに学びましょう。
「時代考証とは、幕藩体制のしくみを細かく調べるなんてものではない。そんなことはふつうの大学の学者でもできる。そんなことではなくて(むろんそんなことはもとより)、たとえば「江戸町奉行」というものについてなら、町奉行の仕事の中身はむろん、その町奉行が仕事が終わってどこに寄り、どんな家に帰るのか、そこでどんな着替えをするのか、そこまで考証する。大奥だって、部屋の数からその調度まで、廊下や厠の位置からその扉のぐあいまで、全部が全部、考証の対象になる」

私も本著序のこの一文を読み本著の意図をつかみました。
「『風と共に去りぬ』のマーガレット・ミッチェルは、執筆にあたって南北戦争当時の新聞、記録、書簡の類を渉猟しつくしたといわれる。また生存者から当時の生活様式や、衣裳やヘアスタイルまで詳しく聞き出している。変動のはげしい1860年代の小麦の価格を調べるのに、半歳を費やしたという話も聞いた。『風と共に去りぬ』の文学的香気や現実感はこの地味な努力と厖大な資料の中から生まれた。偶然にできた名作ではない」

時代作品を描くとは、その時代の細部にきちんと向き合えということです。これは本当に大事なことです。適当に拵えた時代劇なんてすぐに手抜きだとわかってしまいます。時代考証がないからです。だけどタイムスリップとして過去には戻れないのだから、主には文字によって調べるしかないということです。まさに職人技ですね。

今宵は感動しました。なかに「切腹の実際」という個所があり、切腹の種類と作法が書かれていたりもします。辞典というよりか読物として面白い。『読・時代考証事典』を買ってもいいなと思いました。
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[2011/01/01 16:09] | 追うぞ! 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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