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千夜千冊18夜 『「社会的入院」の研究』 印南一路

父と母は介護認定を受けている。くわえて父が外でこけて骨折、一般病床に運ばれもう4ヶ月にもなる。特養へ入居待ち状態。印南先生の本著を他人事には思えない。読みたいと心から思った。

さすが意志決定・問題解決の研究者。いたってシンプルな構成だ。
第Ⅰ部 社会的入院とは何か
第Ⅱ部 社会的入院の実態
第Ⅲ部 社会的入院の発生原因をひも解く
第Ⅳ部 良質な高齢者医療&ケアを実現する政策

第Ⅰ部で、「社会的入院」を高齢者医療最大の病理としている。病理だから根絶せねばならない。壮大な問題解決の書である。「社会的入院」とは、端的に言うと「不適切な入退院」であり、補足すると「社会的妥当性を欠く、新規入院、入院継続、転院、退院」を意味する。

「不適切な入退院」の5類型が示される。
1.社会的新規入院
▼入院医療の必要性が小さいのに、社会的理由によって新規に入院すること
2.社会的入院継続
▼入院医療の必要性が小さいのに、社会的理由により入院を継続すること
3.不適切な転院
▼入院医療を継続する必要性がなくなったため退院するが、本来退院すべき先(在宅や介護保険施設、あるいは療養病床)ではない先に退院すること
4.未完退院
▼入院医療を継続する必要性があるのに、社会的理由によって退院すること
5.社会的再入院
▼不適な転院、未完退院の後、入院医療の必要が生じ、1ヶ月以内に再入院すること

何が問題なのか。著者の主張は4点ある。
1.社会的入院は高齢者の人生を台無しにする可能性がある。
2.社会的入院は医療費の無駄を生み、必要な医療を提供できなくなる。
3.社会的入院は世代内・世代間の不公平をもたらす。
4.社会的入院は医療者・介護者にストレスをもたらす。

第Ⅱ部では、社会的入院の実態が報告される。現状を俯瞰すると、一般病院の高齢入院患者の約三分の一、療養型病院の高齢者入院患者の約半数が社会的に入院している状態と推計される。これは大問題だと思う。

肝心要はなぜ社会的入院が蔓延るのかである。第Ⅲ部が本書の心臓部だ。
著者は、「社会的入院の当事者要因モデル」を示す。平たく言うと、患者側、家族側、病院側に各々に原因があるとする。本質だけを短く指摘すると、患者側の原因は、入院医療への依存である。家族側の原因は、介護忌避である。病院側の原因は、退院調整機能の不足である。

もう一つ、著者は、「社会的入院の需給供給行動モデル」を示す。狭義には、上記三者の当事者要因で説明できる。すなわち、病院側(供給)は、退院調整機能の不足している中で、入院させてもよい、とする。それを受けて患者側・家族側(需要)は、入院医療への依存と介護負担感による介護忌避により、入院したい・させたい、となる。これにより需給がマッチングする。広義には、ここに2つの制度的要因が加わる。1つは、低密度医療問題である。これは、施設の不適切性、病床過剰によるマンパワー分散、診療報酬による誘導の医療提供制度側の問題。2つは、在宅介護へのインセンティブ欠如&入退院の容易性という医療&介護保険制度の問題である。

私見であるが、狭義の当事者需給モデルで事象をみるだけでは、この問題の本質は克服できないのではないか。制度的要因に斬り込まねばならない。

大事なところだから、分かりやすく言いなおしたい。病院側の根本原因は病床数の過剰である。病床数が過剰であるため病床当りのマンパワーが分散し、低密度な医療しかできない一般病床が多い。そこでは入院期間が延びるだけでなく漠然とした医療が提供されるから、高齢者が寝たきりになったり認知症を発症したりするリスクが高くなる。療養病床や介護保険施設も同じくマンパワー不足であるから、寝たきりなりかけている高齢者を回復させる努力は充分払われない。この結果、要介護度の高い患者がどんどん増え入院医療や介護施設の需要が次々に生み出されている。

私は、父の入院を通して上記を痛感した。

患者と家族側の最大の原因は、介護保険と医療保険の間にある種々の不均衡と望ましい高齢者医療&ケアに関する国民の理解不足である。こちらは我々の能動的な学習と覚悟の問題だ。

第Ⅳ部の著者の改革案に賛同する。目玉は、急性期になりきれない一般病床を解消し、医療と介護を総合的に提供する施設(これは現行の老健や特養ではない施設)に転換させること。マンパワー不足による低密度医療から高密度医療に転換し、高齢患者に最短の入院期間で回復に向かわせ、従来の生活に復活させることができるようにする。ここに、在宅医療・在宅介護を活性化させるための保険制度の改革、入退院の適切性をチェックする仕組み、医療やケアの質を向上させるような診療報酬のあり方などを変革する。

読み終えて、患者と家族側として、高齢者医療と介護のあり方とそれに対峙せねばならない現実を鑑みて、深い覚悟が要るのだと悟った。

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[2010/05/05 09:51] | 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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