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千夜千冊19夜 『ジャズ喫茶論』 マイク・モラスキー

本著は「ジャズ喫茶」論である。ジャズ論でも、ジャズ文化論でもない。ところで「ジャズ喫茶」は日本の事象である(アメリカに「ジャズ喫茶」なんてのはないだろう)。ミネソタ大学アジア言語文学学科教授であるマイク・モラスキー氏。このような面白い研究を外国人に先にやられて良いのか。表紙を見て悔しい思いだった。

ウィキペディアで「ジャズ喫茶」をひくと以下のように説明されている。「ジャズ喫茶とは、主にジャズのSP・LPレコード音源をかけ、客は鑑賞を主目的として来店する形式の喫茶店。1950年代に始まり60年代に隆盛を迎え70年代に下火を迎えた。現在では音源の多様化、経営形態の多様化も見られる」。大事なことは、今日でも「ジャズ喫茶」が日本にはあるということだ。

著者がどういう研究をしたのかと言うと、最初から以下のような卑下する。

沖縄から北海道まで、ぷらぷらといろんな町を歩き回り、ジャズ喫茶にふらっと現れてコーヒーを注文し、しばらく店内で流れている音楽に耳を傾けてから、隙を見てノートとペンを取り出しながら店主に声をかける-そのような無礼、かついい加減な「研究」が本書の基盤となっている。

ところが、著者の前著は『戦後日本のジャズ文化』青土社 なのだが、サントリー学芸賞を受賞している。サントリー学芸賞は、広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動を、著作を通じて行った個人に対して贈られるものだ。社会・風俗部門の2006年の受賞が『戦後日本のジャズ文化』である。このことから、著者は『ジャズ喫茶論』を書く前提認識として戦後日本のジャズ文化を基底にしていることがわかる。

いい加減なのか、「ジャズに触れずには戦後日本文化が十分に語れない」という研究者としての大志なのか。私は本書の特徴をとらえきれなかったが、そう力まずに軽い気持ちで読んでくれと著者から肩をたたかれたような気がしている。

本著は、とにかく定義、規則、分類が多い。笑えたり、学べたり、著者の人柄を知ったりできる。

まず「ジャズ喫茶絶対条件」というものだ。7点ある。
1.最低でも数百枚のレコード・コレクション(千枚以上が好ましい)を有すること。
2.一般人が所有困難なほど高品質・高価なオーディオ・システムが設置されていること。
3.店主や店員がジャズ、とりわけジャズ・レコードに対してかなり詳しいこと。
4.ジャズのレコードだけを営業期間中、絶えずかけ続けること。ただし、ブルースやボサノバおよびラテン・ジャズは多少かけてもよいだろう。
5.BGMに間違えられない程度の音量でレコードをかけること。
6.昼間も営業しており、客がコーヒー一杯だけ注文し、約二時間座っていてもヒンシュクを買うことのないような店であること。
7.看板や入り口などに「ジャズ」と明記して店を宣伝していること。

興味深いのは「ジャズ喫茶での行動文法」というものだ。5点ある。
1.全体としてクールにふるまうこと(興奮表出禁止)。
2.最低限以上に喋らないこと(死語禁止)。
3.かかっているレコードを一所懸命聴いているというボディ・ランゲージをはっきり伝えること(「オレは真剣だぞ」、と見せること)。
4.たまにレコード・ジャケットやライナー・ノートを手にとること(「オレは勉強熱心だぞ」、と見せること)。
5.許されるなら、レコード(なるべくめずらしくて渋いのが好ましい)をリクエストしたりすること(「オレは通だぞ」、と見せること)。

時期区分はおおいに勉強になった。ジャズ喫茶の歴史的変遷である。7区分とされる。なお▼は私の感想。
1.ジャズ喫茶創世期 1929年-40年
▼この頃、ダンスホールというのがあったのですね。
2.ジャズ喫茶低迷期 太平洋戦争からアメリカ占領時代 1941年-52年
▼戦時中はジャズ音楽全体が厳しい取締りを受けます。当然か。
3.ジャズ喫茶復活期 1953年-57年
▼FEN(進駐軍放送)のラジオ番組でジャズが流れる。ベニー・グッドマン、ジーン・クルーパ、オスカー・ピーターソン、ルイ・アームストロングなどのジャズ・ミュージシャンが来日。ブームに。
4.モダンジャズ喫茶全盛期 1958年-72年
▼ジャズを聴く若者が急増。この時期に「ジャズ喫茶」が文化になったのですね。
5.ジャズ喫茶混迷期 1973年頃-80年代初頭
▼レコードの相対的価値が下がっていったことと関係しています。
6.ジャズ喫茶衰退期 バブル時代 1980年代初期-1990年代初期
▼若者の支持が急落。音楽聴取習慣の急変に事情がありそう。
7.ジャズ喫茶保存期・回顧期 1990年代半ばから現在(そして未来)へ
▼ジャズ喫茶が団塊の世代と共に滅びていく運命にあるのは寂しい。

本著から「ジャズに触れずには戦後日本文化が十分に語れない」という著者の思いが伝わってくる。著者は言う、「ジャズ喫茶は、欠如・距離感・希少性の3Kで成り立った。つまり、一流の生演奏はめったに聴けず、本場は遠すぎ、そしてレコードは高すぎた。でも聴きたい! 音盤をかける喫茶店という日本独特の空間はかくして出現した」。
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[2010/05/06 11:50] | 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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