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千夜千冊 7夜 『介護現場は、なぜ辛いのか』 本岡類

著者の本業はジャーナリスト。その著者が、ヘルパー2級の資格を取得し、特別養護老人ホームで、非常勤の介護職員として5ヶ月間働いた記録を綴っています。

社会学、文化人類学、民俗学などで、一定の期間、研究対象となる社会に滞在し、その社会のメンバーの一員として生活しながら、対象社会を直接観察し、その社会生活についての聞き取りなどを行うことを、参与観察と言います。

著者は学者ではないので、おそらく参与観察を意図したものではないでしょうが、自ら体験しながら現場を見聞するというアプローチに参与観察に近しいものを感じましたし、読者としての私はとても関心が持てました。特別養護老人ホームの実態を知るという意味で有意義だと思いました。

表題にある通り、介護現場は辛いのだ、というのが本岡さんの主張。肝心なのは、何がどのように辛いのかという、現場のリアリティでしょう。それが見事に言いあらわされています。

まず、介護現場の入居者は高齢者で心身の健康に不自由をお持ちです。そのことにより、本人はもとより、周囲の人も辛いのだと。大きな2つの話題は、いわゆる下の世話と、認知症(言語障害なども含めて広義にとらえる)でしょうか。自らの糞尿と記憶と言語の制御ができないのですから、その結果、健常人からみたら信じられないことになって、本人も周囲も不快だし、不快を通り越してストレスが積み重なり、時には絶望に陥るなど、このような現場のリアリティが心を痛めて伝わってきます。

次に、介護職員が辛いのだと。そして、この介護職員の辛さは構造的になっているとの指摘には随分と考えさせられました。

介護現場では24時間、何が起こるかわからない。またその起こることが時には想像を絶することがある。必然的に辛い仕事となる。シフトを組むが、辛い仕事ゆえに離職率が高く慢性的に人手不足である。そうであるから、常勤介護職員は休む間もなくしかも変則的に昼夜問わず現場につめないといけない。

大勢の入居者への対応にあたろうとすると、非常勤の介護職員のマンパワーに頼らないとやっていけない。けれども計画的な採用と育成をしていないために、現場では非常勤の介護職員の仕事の対応力が遅遅として向上しない。そのような状況の中では、常勤職員は非常勤職員にキレたりあたったりし、まともな対応ノウハウの指導は行われていないのが現状である。

加えて、入居者の健康状態のデータベースや、作業マニュアルも整備されていない。非常勤職員は、このような状況の中、心身ともに疲れ果ててやる気をなくし、そして短期間に辞めて行く。この繰り返し。また仕事が体力勝負のところがあり、中高年の職員だとなおさらきつい。

このような負のストレスの連鎖が現場には渦巻いていると本岡さんは述べています。そして私も合点がいきましたが、そのようなストレス過多の状態にあって、やがて一番弱い人間、つまり入居者へその負の矛先が向けられる。

入居者は、ビジネス上は顧客であり、形式的にはプライバシーの配慮など施されるものの、相対的に強い人間からみれば間違いなく弱者であり、物理的や精神的に、虐待といわないまでも、ネガティブな言動が取られやすい環境にある。

結局本岡さんも、この現場の辛さに耐えかねて、半年もたなかったようですが、こうやって現場のリアリティを紡いで本にしてくれたおかげで、様々な観点からの問題認識が持てるようになりました。

ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。
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[2009/06/24 00:10] | 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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