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千夜千冊 3夜 『つながる脳』 藤井直敬

理化学研究所に脳科学総合研究センターがあるそうですが、そちらの研究員の藤井直敬さんの新著です。最近では脳科学は殊に有名になっていますし、たくさんの脳関連書籍が出版されていますが、それらのどのような書籍にも載っていないアイデアが満載となっています。稀有な書だと思います。

著者の大きな問題意識は、今の脳科学は使えないという指摘です。一般に脳科学を含めた基礎科学(分子生物学、物理学、材料化学等)は浮世離れしている。私たちの日常生活を変えてしまうような影響力を与えていないと言います。一方で、基礎科学と産業が直結した結果生まれた情報技術(IT)という科学は、インターネットに立脚した通信技術により、短期間の間に私たちの生活を変えてしまった。

著者の仮説は、脳科学の出口は、ITと同じように情報伝達の根幹に関わるコミュニケーション技術、しかも脳と直接つながるコミュニケーション技術に向かう以外にないだろうというものです。

世間的には脚光を浴びているかのように見える脳科学ですが、著者によると、ここ数年の脳科学、特に記憶や意思決定などの高次認知機能に関わる脳科学の進歩がスローダウンし、どれをとっても過去の仕事の焼き直し、もしくは単発のネタ勝負のような研究が増えてきていて、脳科学者も途方に暮れ始めているとのこと。

著者の目指すのは、“社会的な脳機能”の研究です。自分のやりたいことを実現するために、社会という目に見えない構造を上手に操作し、さらにその場の空気にあった正しい振る舞いを選ぶための適応的な脳の働きを深く考えてみようというものです。

残念なのは、本書はその研究の成果と含意を一般に啓蒙する内容ではなくて、脳科学者がなぜ“社会的な脳機能”の研究に意義を見出し進めることができないのか、すなわち最新の脳科学の世界でも乗り越えられない壁があることを、その内部事情を紹介するように書かれています。

最前線の脳科学者が行っているプロジェクトラーニングといえば良いでしょうか。平易に書かれているとはいえ、私たち素人には、その壁とやらの深刻さが今一ピンときませんが、まだ若い著者らの世代がブレークスルーを起してくれるかもしれないと、大きな期待が持てます。

で、ここまで書いて、本著の内容要約を何も書けていないことに気づきました。それには理由があります。上記に述べた技術的な概念の難しさがあることは否めないところです。併せて、著者曰く荒削りなアイデアが盛りだくさんで、筋道を通して何かの結論的なメッセージを主張しているという内容となっていないためです。

ですが、一般には得られない脳科学の話がぎっしり詰まっていますので、仲間内で話し合っていみる時には、とても良質な本だと思い紹介させていただいた次第です。





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[2009/05/19 00:10] | 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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