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千夜千冊 2夜 『化粧と人間』 石田かおり

化粧について、現象学(哲学)を応用し研究している本著には、こうあるべきだという主張が随所に散りばめられています。著者は、化粧の定義を、広くとらえるなら「人体の表面に手を加えて加飾・加工をする行為のすべて」とし、狭義には「色を用いて顔面に線や面などを描く、いわゆるメーキャップ」としています。

冒頭から子供の化粧についての話題が始まり問題点が5つあると指摘されています。それらは、①かつて化粧をしなかったこれらの世代が化粧をすることについての是非の問題、②その是非を論ずる明確な価値的根拠、すなわちこれらの世代の化粧をどのように捉え、位置づけ、意味づければよいのかという問題、③どのような価値観に従って化粧を行っているのか、つまり価値基準の問題、④成長期であるこれらの世代は、化粧が身体にどのような影響(主として悪影響)を与えるのか、という身体の自然科学上の問題、そして⑤どのような場面にどのような化粧を行うのがふさわしいか、あるいは社会から逸脱とは受け取られないか、という場面別の化粧範囲の問題です。

このように本著では、児童・生徒の、そして女性の化粧を対象にしていますが、著者の思いとしては、そのままそれ以外の対象、つまり大人全般に、年齢と性別を問わないすべての人に該当する普遍的なものを目指したいらしい。

私は本著の内容にとても興味を持ちました。まず、子供の化粧についての問題意識に対してです。特に5つの問題の中にある価値基準というものに。何、価値基準って? 読み進めていくと、冒頭に記したように著者は個性的な主張の持ち主だと分かった次第です。

美的価値基準はどうあるべきかを論じています。そんなのは個人的な主観ではないか、どうあるべきかなどと言うべきではないと否定しないで下さい。私もそうしかけて、しばし立ち止まり著者の言い分に耳を傾けましたから。

「ファストビューティー」「スロービューティー」というコンセプトを著者は編み出しました。ファストビューティーは、大量生産と大量消費を目的とするファストフードを倣って、スピード化社会と若さと健康と美の一体化の根幹に近代原理が存在することを認識したうえで、近現代の美的判断基準をスピード化の進んだ時代の美という意味で使われています。

ファストビューティーでは「加齢が問題であること」に問題性を宿しているとのこと。容貌の醜い者は差別してもよい、容貌を修正する努力を惜しむ者は社会的脱落者である、美容に関心のない者は変人である、そうした考え方がここから発生してくる。容貌がよい者や容貌をよい状態に保つことのできる者が社会的勝者であり、そうでない者は社会的弱者であるという考え方が生じているのが大問題だと指摘されています。

ファストビューティーに対比させ、スロービューティーが造語されていますが、著者の4つの主張が提供されています。①現在は若さと健康と美が一体化したものが最強の美的価値になっているが、その問題の原点は美的価値基準の画一化に存在している。美的価値基準の個人内多様化を目指したい。それは「人それぞれの美しさ」「年それぞれの美しさ」の存在である。②①を基にして化粧への行為に変化を起したい。個性を伸ばして独自の美を形成することである。毎日毎日の、一年一年の積み重ねでしか得られない美しさは個性的である。③美容や化粧は結果偏重から過程を楽しむようにしたい。過程を重視することから、五感を活性化するような美容や化粧品が好まれ重視される方向性を考えたい。④スローは、昔の生活に帰れという時代逆行ではない。

化粧品メーカーのスロービューティーにおけるプロジェクトラーニングを進める必要があると私は直感しました。これから具体的な提案が生まれてくることでしょう。それらに根拠をあたえるだろう著者の仕事に感謝の念が絶えません。

最後に、本著では化粧教育の内容を構成として提示してくれているので紹介しておきます。

Ⅰ.自然科学的基礎知識教育
 ①化粧品成分に関する知識
 ②紫外線に対する知識
 ③肌や髪の整理に関する知識
Ⅱ.社会的基礎知識教育
 ①成人の証としての化粧
 ②ハレのしるしの化粧
 ③日本人の清潔感覚
 ④身だしなみの意味
 ⑤身体加工が自己目的化しやすいことを教える
Ⅲ.道徳的判断基準教育
 外見は差別につながることも多いことを知りそれに気づく。
 化粧にとって何が大切か考え、話し合う。

あらためて、著者が提唱する「美人の三要件」に共感しています。「美人の三要件」とは、言葉遣い、立ち居振る舞い、教養、です。







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[2009/05/14 00:10] | 千夜千冊 | コメント(0) | page top
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